入り江の小さな城下町で

私の生涯の恩師である研究室にも出入りしていたりで、まあ、当然のことながら日大の教授たちには目をつけられていた。そんな、はみ出し者で若造の私が、なぜ、親戚でも何でもない、人様の住まいを設計する栄誉を得ることができたのか。いまさらながらに、出会いと縁の不思議に驚き感謝せずにはいられない。そのチャンスは、生田研究室で知り合った先輩のK氏に与えられた。友人の姉夫婦の家を設計することになったのだが、建て主がどうしても木造の家が良いということになり、木造設計の経験がある私に、「手伝ってくれないか?」ということになったのである。私は、一も二もなくOKした。最初は先輩の手伝いとして、そう、単にディテール(詳細図)を描くだけのつもりだったのである。■入り江の小さな城下町で。先輩に連れられて、東京から夜行列車で二十数時間、単線の日豊線に乗り換えてさらに数時間。うすきようやく降り立ったのが目的地、生まれて初めて人の住む家を設計することになる、大分県の臼杵市であった。臼杵の駅では、建て主である小手川氏が出迎えてくれていた。穏和なまなざしに落ち着いた立ち居振る舞い、それでいてとてもモダンな紳士だった。この人が、ご家族三人の息子さんと美しい奥さんと、実際に住む家を設計するのだ。そう思うだけでわくわくし、胸の奥に感動がこみ上げてきたのを今も鮮明に覚えている。

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