偶然のチャンス

■偶然のチャンス。大学の建築学科に通っているとはいえ、現実に、二十歳そこそこの学生に家を設計させるといったら、あなたはどう思うだろう。あまつさえ家は、一生のうちで一番大きな買い物といわれる。「無謀なことをする」とか、「どうかしているんじゃないか」というのが、大方の意見であろう。だから、建築家を志す学生にとって、そんなチャンスは滅多にあることではない。ところが私は、ひょんなことからその偶然のチャンスを手に入れたのである。日本大学理工学部に新しくできた経営工学建築学科二年の私は、当時、大半の大学生と同様、マルクスを聞きかじり、麻疹のように感染していた。建築科の学生を集めて「建築研究会」なるものをつくり、「炎」などと、いかにも危ない名前の機関誌を発行して、教授たちや体制を批判したりする、いわば落書き帳のようなものを真剣に編集した。あるいはまた、教授からだされた課題に、ちょっと生意気な提案をしたり、必要以上に凝った模型をつくって挑んだり、今考えると倣慢で、反抗的な学生だったと思う。挙げ句の果てには、東京大学の生田勉教授(哲学的な建築家で、当時、東京大学教養学部の図学の教授だった。ユートピア論をあらわしたアメリカの社会学者、ルイス・マンフォード氏の著書翻訳も多数手がけている。

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